実はメタバースは最近できた言葉ではなく、30年以上前からある言葉なんです。
そのはじまりは、アメリカのSF作家ニール・ステファンソンが1992年に発表した小説『スノウ・クラッシュ』です。今回は、この小説のあらすじや小説がその後の世の中に与えた影響について紹介していきます。

1.小説『スノウ・クラッシュ』のあらすじ
『スノウ・クラッシュ』の舞台は近未来のアメリカ。そこでは国家という枠組みが形骸化し、大企業やフランチャイズのような組織が街を支配しており、人々は現実世界と仮想空間(=メタバース)を行き来しています。
主人公は「ヒロ・プロタゴニスト」という青年で、現実世界では宅配ピザの配達員や情報集めの仕事をしているハッカー。一方、仮想空間であるメタバースの世界では、優れたプログラマーであり“剣の達人”という顔も持っています。
そんな彼がある日、“スノウ・クラッシュ”と呼ばれる謎のドラッグ(薬物)に出会います。ところが、これはただの薬物ではなく、コンピューターのコードを介してメタバース内でも人間の脳に作用し、最悪の場合は人を廃人にさせてしまう危険な存在でした。ヒロは相棒の少女ユーティ(Y.T.)と協力しながら、スノー・クラッシュの正体と、それに隠された古代の言語や宗教にまつわる陰謀を解き明かそうとしていきます。
2.メタバースとアバターを生み出した重要な作品
● “メタバース”という言葉の誕生
『スノウ・クラッシュ』では、仮想空間のことを「メタバース」と呼びます。もともと“meta”(超越した)と“universe”(宇宙)を組み合わせた造語で、いわば“仮想宇宙”のようなイメージです。人々は専用のゴーグルや端末を使って、現実世界からメタバースにログインし、そこで自由に行動・交流します。
● “アバター”という存在
もうひとつの重要な要素が「アバター」です。これはメタバースにおける自分の分身を指す言葉。現実の自分とは全く違う見た目のキャラクターを作ったり、自分が理想とする姿を投影したりできるので、メタバース上のコミュニケーションに新たな可能性をもたらしました。
特に凄いなと思ったことは、スノウ・クラッシュの中はネットワークが遅くなるとアバターの解像度が粗くなって、ローポリのような状態になることまで表現されています。
3.その後の技術・社会への影響
『スノウ・クラッシュ』が発表された当時は、まだインターネットも今ほど普及しておらず、バーチャルリアリティも研究段階の技術でした。それでも、この小説に登場するメタバースやアバターのアイデアは、のちの技術者や研究者たちに大きなインスピレーションを与えています。
- オンラインゲームやVR空間の発展
小説に描かれたような仮想世界でのコミュニケーションは、MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)やVR(バーチャルリアリティ)ゲームで実現し始めました。たとえば『Second Life』や『VRChat』など、3Dアバターでの会話やイベント開催が可能なプラットフォームは、“自分の分身で仮想空間を動き回る”という『スノウ・クラッシュ』の世界観に通じるものがあります。 - SNSやコミュニティの広がり
現在のSNSでも、自分のアイコンやプロフィールを自由に作成し、ある種の“仮想の自分”として活動できます。さらにメタバース型のSNSでは、テキストや画像だけでなく、3D空間で実際に会って話すようなやりとりが可能になってきています。こうした流れは、『スノウ・クラッシュ』で描かれたアバターによる交流を思わせます。 - 企業や教育分野での活用
VRやAR(拡張現実)が進化するにつれ、会議や講義、イベントを仮想空間で行うケースが増えています。たとえば、遠く離れた人々がメタバース上で会議をしたり、学校や塾の授業を仮想空間で行ったりする試みが進んでいます。「現実では実現しにくいこと」をメタバースで体験できるというメリットは大きく、今後もこうした取り組みは増えていくでしょう。
4.まとめ – 仮想空間が広げる新たな世界
小説『スノウ・クラッシュ』が提示したメタバースの世界とアバターの概念は、多くの人に「仮想空間での生活やアイデンティティ」というテーマを考えるきっかけを与えました。いま、私たちはスマホやコンピューターを通じて遠くの人とつながったり、SNSで自分を表現したりしていますが、その延長線上にはよりリアルに近いメタバース空間での暮らしが存在するかもしれません。
ニール・ステファンソンの描いた未来は決して単なる空想にとどまらず、現代のテクノロジーや社会の一部になりつつあります。もし興味があれば、ぜひ『スノウ・クラッシュ』を手に取り、その物語の中で描かれる仮想空間と人間の関係を体感してみてください。
~ 関連記事 ~

コメント